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2020.01.12 Sunday
【保存版!】「蝦夷鹿革の希少性」について検証する:KUSHITANI名東店

昨日のディアスキンスングルライダースの紹介記事の中に、「蝦夷鹿の革の希少性」について大まかにこんなことを書きました。

 

 〇蝦夷鹿の生息数そのものはけっして希少ではない(むしろ増えている)

 

 〇しかし、それを捕獲する猟師の数が減っているうえ、高齢化も著しい

 

 〇また、捕獲した鹿を、食肉や衣料用の皮革として加工する業者や流通させるシステムがあまりに少ない

 

 〇結果的に「蝦夷鹿の革をオートバイ用革ジャケットの素材として使用すること」自体は「非常に希少」と言える

 

これは以前に聞いた話のうろ覚えと僕の想像を交えて書いたため、あくまでも「そうらしい」という域を出ないものでしたが、ここはもうちょっと掘り下げてみたいと思い、友人の「リアル北海道猟師」に色々教えてもらいました。

 

以下、彼から送ってもらった画像などを交えて解説していきます。

 

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友人の名はAクンとしておきましょう。

 

Aクンは東京生まれの東京育ちながら、北海道をオートバイで旅をするうちにその魅力に取り付かれ、北海道へ移住し、現在猟師を生業にしています(もちろん猟師だけではありませんが)。

 

狩猟の経験も長く、自然や動物に対する見識も深いため、いつも色々示唆に富んだ話を聞かせてもらっております。

 

そんなAクンに、北海道の鹿の生息数や捕獲後の利用状況などを聞いてみました。

 

結果から言いますと、昨日僕が書いたことはそれほど外れてはいませんでした。

 

まず、蝦夷鹿の生息数そのものですが、平成22年のピーク(約68万頭)を境にここ数年は横ばいもしくは減少傾向です(参考資料)。

 

これはあまりに増え過ぎた鹿による、農作物被害や交通事故などへの対策として、駆除に力を入れた結果でしょう。

 

平成22年といえば8年前ですが、確かにその頃北海道へ行くと、地元の人から「鹿が増えた」という話をよく聞きましたし、実際よく目撃しました。

 

これに対し、平成28年度の生息数が約45万頭ですので、ピーク時の三分の二程度まで減っていますが、じゃあこれが「少ない」のかと言えば決してそんなことはなく、明治の開拓前の生息数が約50万頭と推察されていますので、ほぼそれに匹敵する頭数は生息しているということになります。

 

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しかし以前の記事にも書きましたよう、狩猟人口は「ハンターこそが最大の絶滅危惧種」などと揶揄されるほど減少の一途ですし高齢化も著しく進んでいます。

 

獲る人が少なければ捕獲頭数も少なくなるのは自明のことですが、それと共に大きな問題は「捕獲したその後」にあるようです。

 

猟師が鹿を仕事として獲る場合、二通りの目的があります。

 

一番目の目的はその肉を売ることです。

鹿肉自体にはそれなりに需要はあるようですから。

 

ただし、これには多少の制約があって、「撃ってから、保健所の検査に通った処理場に二時間以内に持ち込まなければいけない」とか、「食べる部位以外のところ(頭や首など)に弾を撃ち込まなければならない」という決まり事があります。

 

また、取れた個体の大きさ、雌雄、時期などによって価格は変動する不安定さがつきまといます。

 

もう一つの目的は「役場からの申請による有害駆除」です。

 

この場合、規則的に「一頭につき幾ら」という固定された駆除費が支払われます。

どこに弾を撃ち込もうが、身体が小さかろうが、機械的に駆除頭数に応じた金額が支払われます。「その先」のことは考慮の対象外です。

 

もちろん役場からの申請によって駆除した個体を肉として売れば、駆除費+肉の代金となるわけですが、慎重に頭を狙って撃って、それを慌てて処理場に持ち込むことを考えると、撃つ部位に拘らずに二頭目、三頭目を狙った方が稼ぎとしては効率がいいのだそうで、結果的にはそういう鹿は食肉として利用されることなく廃棄されてしまいます。

 

そうなると当然のことながら肉だけでなく、革も全く流通しません。

 

ただし、もっと根本的な問題として、食肉としてきちんと処理された鹿でも、元々革はほとんど廃棄されていたのが現実のようです。

 

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実は日本人と鹿革との歴史は相当古く、衣料用としての使用は弥生時代くらいまで遡るんだとか。

 

生息量も多く、捕獲もそれほど危険をともなわず、且つ強靭さをも兼ね備えた鹿革は、衣料だけでなく様々な装飾品にもよく利用されてきました。

 

ただし近代になり、世界的に牛肉の消費量が増え、日本人の食生活も欧米化していきますと、衣料用皮革としての立場はあっという間に牛革にとって代わられます。

 

食肉や牛乳用に飼育された家畜の革と、野生のものを捕獲した革では、その供給量や品質の安定性では比較になりません。

その上牛革は強靭さと柔軟さを兼ね備えたうえ、面積も大きく取れるので衣料用としては実に有利です。

 

そうなってくると鹿革の需要は益々落ち込むばかりです。

 

近代においては鹿革の需要は、セーム革として小物やメガネなどのレンズ拭きなどに使用される、極めて限定された分野に限られてしまっていました。

 

実は、この増え過ぎて捕獲したこの大量の鹿革をなんとか有効利用する方法はないものか?という模索は過去にされていましたようで、北海道の猟友会と奈良の皮革加工業者が協力して、捕獲した鹿革を送って加工してもらっていたそうなのですが、輸送コストがかかりすぎることと、送られてくる革に穴やキズが多く、商売としては採算が合わずにワンシーズンで頓挫したそうです。

 

そもそも国内の皮革加工業自体が縮小する一方ですので、この現状が劇的に変わることはもうほとんど望めないでしょう・・・

 

 

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以上のように、「蝦夷鹿そのものの生育数」は全く希少性はないけれど、その皮革が衣料用(ましてやオートバイウエア)に使われることは「極めて希少なこと」と断言してしまってよいでしょう。

 

実はこの記事を書くにあたってAクンにクシタニの新製品について話したところ、「クシタニがどこからその革を手に入れたのか逆に聞きたいよ!」と驚かれてしまいました(笑)

 

それくらい蝦夷鹿の革が衣料用に使われることは稀なようですね。

 

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*Aクン愛用のレミントンM700。軍用、狩猟用問わずボルトアクションライフルのマスターピースです。

 

 

クシタニがどうして今この革でジャケットを作ろうと思い立ったのか?

またその革はどうやって入手したのか?ということについては、あらためて開発陣に取材が必要ですね。

 

これは僕の現時点での想像なのですが、一般的な牛革以外の革(馬や鹿)でジャケットやパンツを作る場合、企画サイドから「これこれこういうコンセプトのジャケットを作りたいのでこういう革を作ってほしい」というアプローチよりも、タンナー(革鞣し業者)さんの方から「こんな革が手に入ったんだけどクシタニさん使ってみる?」という提案から始まった企画も多いと聞いたことがありますので、今回はそんな可能性もありますね。

 

いずれにしても興味は尽きません。

 

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ここから先は余談になりますが、以前「情熱大陸」だったか何だったか、そういう系統のドキュメンタリー番組で、とあるブランドバッグ専門店の店長に密着した番組を観た時のことです。

 

その店長は、朝のミーティングでとある新製品を手に取り、「このバッグの革は、イタリアの職人さんの手によって丁寧に何度も鞣された革を使っています。そういうところもお客様にアピールしてください」と語り、そのシーンに被せるように「店長は単に売るだけではなく、プロとしての深い商品知識も大切だということを従業員に教育している」みたいなナレーションが流れました。

 

僕は正直ビックリしました。

 

「深い商品知識??その程度のことが!!??」

 

この店長は「革を鞣す」ということがどういうことを指すのか本当に理解しているのだろうか?という疑問が沸々と湧いてきましたが、同時に「婦人用のハンドバッグを買いにくる顧客層が『クロム鞣しとタンニン鞣しの違いとそのメリット・デメリット』とか、『バタフリの回数が革の柔軟性に与える影響』などについて質問してくる可能性」に思い当たり、「まあそんなもんかな?」と納得したのでした。

 

ただし僕はそうはいきませんwww

 

「希少な蝦夷鹿の革を使いました」とお客さんにアピールする時、「はて?蝦夷鹿ってメチャクチャ増えてて問題になってたじゃん?本当に希少なの?それともそれを希少とアピールする根拠はどこにあるの?」ってことを考えだすともう我慢出来ないのです(笑)

 

きっと皆さんもそうですよね??

 

クシタニユーザー・・・特にこのブログ読者の知識欲と見識の高さには、僕はいつも驚きと尊敬と感謝の念が耐えません。

 

そんなわけで、今回の記事を皆さんが面白く読んでくださったらこんなに嬉しいことはありません!

 

なによりも忙しいなか、僕のしつこい質問に丁寧に答えてくれたAクンには最大の感謝を送ります!!

どーもありがとね〜!

 

余談ついでに・・・・

 

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この頭蓋骨は、以前Aクンが送ってくれたエゾヒグマの頭部です(推定150kgの雄の成獣)。

この状態にするまでももちろんAクンの手作業によるものです。

 

捕獲したクマの生首を切り取って、皮と肉を剥ぎ、綺麗になるまで煮沸して磨き込んでくれたそうです。

制作過程の画像も送ってくれたのですが、それはもうなかなかにアレな画像でした(笑)

 

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これがライフルの弾の射入孔です。

実にいい腕ですね。きっと苦しまずに逝ったはずです。

 

ハンターというと「動物を殺す職業」という一面的な曲解を持つ人がいますけど、生き物の命を奪うことを生業いとする彼らこそが、実は一般の人の数倍も数十倍も、自然や生き物に対する正確な知識と、それに裏打ちされた経験と、そして何よりも敬虔な気持ちを持ち合わせた高潔な精神の持ち主だということは付記しておきます。

 

僕の知る限りAクンはその典型です。

彼ほど熊に対する知識と愛情をもった人物を僕は他に知りません。

 

 

それでは長文にお付き合いありがとうございました!

 

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